宵籠り

憑喪と付喪神

一閃。
 振り下ろされた太刀が深い傷を与えると、憑喪の姿は粉々となった。しばらくの間、周囲の様子を伺ってみたが、後続が現れる事は無かった。
「れん」
 刀を鞘に納めていると名を呼ばれ、
「恒次様。……気配を消して近付かれるのは如何なものかと」
 一応は戦場に出る身なので、普通の人よりは気配には敏感だという自負はあるが、人ならざる存在はさらにその上をゆくという事か、などと少しの悔しさと畏怖を滲ませて苦言を申し立てれば、
「その前に一人で勝手に出歩いている貴女に対して苦言を伝えたいところですが」
 と、むしろ苦言を返されることになってしまった。しかし彼女の立場からしてみれば、こうして出歩くことは彼らと出会う前から行っていたものであり、その苦言に対しては今更である感が否めない。そんな思いが僅かながら表情に滲み出てしまったようで、数珠丸恒次はさらに言葉を続ける。
「今更言われてもという不服さを感じますが……。皆にそういうものと認識される事と、諦められる事は結果が同じかもしれませんが、至る過程には雲泥の差があると思いますよ。それに今回は群れではなく個で済みましたが、敵に囲まれてしまったらどうするつもりですか」
 どうやら今日は藪を突いてはいけない日だったらしい。あれよあれよと言葉が溢れ出てくるものだと感心してしまう。数珠丸れんと縁を結んだ数珠丸恒次という刀剣男士は、どちらかと言えば静かに佇む姿を見かけることが多く、口数は少ない方に分類されるのだろうが、何故か彼女に対しては口数が多く__多いのは小言の数というのは彼女の談であるが__なっているように感じられた。
 その度に、それも自分の性質と分かっていて縁を結んだのではないかと心の中で思うに留めてはいるが、物申したくなる。余談だが、そうした数珠丸れんの姿も、屋敷町の住人の側からすれば珍しく映っていたりする。
 刀剣男士という付喪神たちは程度の差こそあれど、縁のある少女に対しては何かと他にはない情を向ける傾向にあるようだけれど、私の刀の付喪神様は少々過保護気味だな、と改めて実感を得るのであった。
 ああ、そう言えば__
「憑喪と付喪神。名としては似たものを感じますが、在り方は随分と違いますね」
 浮かんだままに口にすると、何を唐突にとでも言いたげな視線が向けられる。
「方や人の想いに答え力を振るう。方や人の遺したものを食らい破壊する。こうも違うのに、名としては同じ『つくも』なのは随分と皮肉が効いていると思いませんか?」
「私たち刀剣男士は、人が作り出した刀に込められた思いや願いを元にしています。貴女方が戦う相手は、形を得るために人の遺したものを選んだのでしょう。物から成るというだけの共通点で一括りにされるのは些か……」
「矜持に傷が付きますか?」
「……」
 返答がないということは、あながち間違いでは無いのだろう。
「刀剣男士の皆様はどちらかと言うと付喪『神』の方に寄っているようですね」
 ならば多少の強引さ、時としての傲慢さにも納得がいく。
 さてこれで聞きたいことは聞けたと、また小言の続きが来ないうちに戻ったほうが良いだろうと判断し、
「それでは、戻りましょうか。迎えに来てくださったのでしょう」
「……ええ。戻って言いたいこともありますし、行きますよ」
 思いっきり吐かれた溜息は聞かなかったことにしておく。
「説法は聞きますが、小言でしたらご遠慮申し上げます」
「貴女ときたら……。小言でも聞き入れなさい。煩わしいと感じるのであれば、次からはせめて私にだけでも報告をして下さい」

 その内に一振りと1人がふらっと姿を消してちょっとした騒ぎになるのはまた別のお話。
 


後書き
あの声で、あのトーンで「れん」って呼んで欲しかった。
2023/06/01 Privatter掲載作品再up

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