そこは公平に!
「きりこ、居るかー?」部屋の外から少し間伸びした声で呼ばれ、返事をしてひと呼吸後に開けた先には、見上げなければ顔が見えない長躯の姿__御手杵という槍の刀剣男士が佇んでいた。何故か石田正宗きりこはこの刀剣男士に構われることが多く__厳密には全くの無縁とは言い難いところではあるが__自然と行動を共にしている光景は最早馴染みのものになりつつあった。
「何か用かな?」
「ちょっと着いて来てもらっていいか?」
問いに問いで返さないで欲しいとは思うけれど、こうしようと決めたことは突き通す性分のある相手だということは今までの交流で学んでいるので、きりこは頷くことで了承を示した。
了解が得られたことを確認した御手杵は、そのまま踵を返し、何処かへと歩き出した。
遅れることなく後に続いて進めば、たどり着いたのは御手杵の使用している部屋だった。
だったのだが、室内には色とりどり形様々な髪飾りがそこかしこに散乱していた。あまりにも似つかわしくない光景に呆然としていると、ひょいという効果音が聞こえそうな程軽々ときりこの身体が持ち上げられ、室内の真ん中辺りに座る御手杵に背を向ける形で、膝上に乗せられた。
「なっ……え?」
「うーん……。まずはこれとか、こっちの方がいいか?」
状況が全く掴めていないきりこはそのままに、御手杵はある程での目星はつけていた髪飾りをきりこの長い髪に当てて吟味し始めた。
「いや、ちょっと待ってほしいのだが!」
このまま流される訳には行かないと、大きな声で待ったをかけると、なんだどうしたと言いたげな瞳が向けられる。
「状況を説明して欲しいのだけれど!一体君は何がしたいんだ!?」
「何って……、きりこはいつも同じ髪型だろ?たまには違うのにしたらいいんじゃないかって、そしたら乱藤四郎がさ、色々持ってるっていうから借りてきた」
おそらくまだ色々と説明が足りていないけれど、おおよその事態は把握できた。乱藤四郎とは、まるで一見すると少女のような見た目をした刀剣男士。あの刀であれば、見目を飾る物は持っていても可笑しくはない。ないだろうが……、
「そこは普通なら、新しいものを用意するところじゃ……」
「んー……でもなぁ、俺には何が似合うとかよく分からないからさ。だったら色んなものを試して、それからにした方がいいと思ったんだよな」
きりこの髪は全体をみれば薄い水色だが、紫がかった部分もあったり、光の加減で白銀の様に見えることもある。その唯一と共存できる飾りを探すには、そうするのが一番だと御手杵は考えたのだった。
しばらくあれこれと取っ替え引っ替えしていたが、一つ納得できるものがあったようで、束ねた髪を解くと、飾り付けに合わせて髪を再度結い始めた。……結い始めた?
「待った!」
「うお、びっくりした」
急に動くなと咎められたがそれよりも、
「いや、君いつの間に髪を結えるようになったんだい?」
少なくとも、自分の知る限りではそんな素振りは一度もなかった。本当は振り向いて問いつめたいところだけど、残念ながら髪をいじられている最中なので、背を向けながらきちんと答えるように圧をかける。
「あー……乱藤四郎がさ、折角だし飾りをつけてあげなきゃって、できないって言ったら自分で練習しろって」
出来る様になるまで逃さないと、瞳が語っていたと御手杵は後に語る。
「……ふーん……そうか。君は僕の知らない所で色々と出来る様に訓練していたと。ふーん」
何やらきりこの言葉の端々に棘が生え始めているが、御手杵はさして気にも止めず、むしろ未だ慣れないながらも丁寧に結うのに必死でそこまで気を回していないのか、黙々と結い進めている。
何かがモヤモヤとしている。
言っている内容は理解できるものだけど、何かが素直に受け止めることを拒む。自分に黙っていたこと?今から着けるのは__向こうは厚意で貸してくれたと分かるのに__御手杵が選んだ『他者の物』だから?それとも、それとも……。幾つもの自答が浮かんでは沈み、浮かんでは否定していく。
与えられる感情が嫌なわけではない。それだけは確かだ。ただ、自分だけが与えられるのはどうにも違う気がしてしまう。
ひとまずは練習の成果を拝見して、それから自分も何か出来ないか、できれば同じように驚かせるようなものがいいけれど、向こうが誰かと共謀したのなら、自分もそうしてみようか。そんな思いを胸に秘めつつ、きりこは完成するのをゆっくり待つことにした。
- 後書き
- いつだって、出来れば対等でいたい。だって違う存在だから。
オンリーの主催者さまへ捧ぐため突発でイベント中に書き上げました。
- 2023/06/01 Privatter掲載作品再up