宵籠り

ある夜の一幕

天下五剣の一振りに対する修行の報がもたらされた。
 先に修行を終え極の姿となった天下五剣の一振り・三日月宗近の際には、騒動の後ということもあり、審神者たちは動揺したらしいが、今回は実にあっさりとしたもの——というか前回が大事過ぎたため、それに比べたらという話であるが、とにかく数珠丸恒次の修行が決まった。
 と、かの刀の縁者である数珠丸れんは、人伝に聞いた。
 もう一度言う。
 本刀からではなく、幾人かの伝聞を経て聞いたのであった。
 あの刀らしいと思いつつ、それでも本刀から知らせに来てくれても良かったのではないだろうかと、今までに何度も知らせを聞く様子を見守ってきた彼女は思う。
 思いながら、夜に染まった本丸の一角で佇んでいた。
 特に約束をしたわけではないのだが、待っていれば来てくれるだろうという確信はある。
 そうして、夜空を眺めながら少しした時、
「れん、ここで何を?」
 待ち刀はやって来た。
「何を、と問う前に頂きたい言葉があったので、貰いに来ました」
 ちょっとだけ言葉に棘が出てしまうけれど、それくらいは許してほしいものだ。
「ああ、そうでした。修行に行くことが決まりました。主とも話をして、明日旅立ちます」
「…………まさか貴方から直接聞いたのが前日になるとは誰が予想できたでしょうね」
「私自身も、修行に対して色々と思いを巡らせたりしていたのですよ」
 決して忘れた訳ではないのだと、彼は言外に申してくる。
「まぁ、行ってしまった後に知るよりはよかった、としておきます」
「ありがとうございます。要件は済みましたか?」
 そろそろ屋敷町に戻りなさいと諭されるが、彼女がしたかった事が一つだけまだ残っていた。
「これを……貴方に貸してあげます。修行の守りにでもなればと思いまして」
 そう言っていつも手にしている数珠を彼に渡す。気休めかもしれないが、それでも自分の心は落ち着く。
「ないと困りますから、必ず返しに来てくださいね」
「わかりました。無事に修行を終え、必ず返します」
「……それでは、見送りは要りませんのでここで。おやすみなさいませ」
 彼女としてはまだ何かを言いたい気もしたが、前夜にあれこれを言うのも……そんな時間も過ごしてみたい気持ちもあったが、ここは大人しく帰ることにした。
 そして明朝、かの刀が日付が変わるとともに旅立ったことを知った彼女が、今度こそ「あの方は本当に‼︎」と憤慨していたのを、縁者から聞いた同じ天下五剣により教えられるのは、その手の数珠を返却し終えた後の話だった。

 

  

後書き
数珠を貸すシーンが書きたかっただけです。
そして無意識に振り回されてるれん様が書きたかった欲に負けましたが、悔いはありません。
2023/07/22 up(本丸屋敷交流録その弐展示)

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