流るる赤の訳しらず
妖刀鬼女。 死装束を纏い見慣れた少女のものとはかけ離れた、異形に寄った姿。虚島と呼ばれる場所にて捕縛したという「蛍丸あそ」の妖刀鬼女は、大きな瞳からポロポロと赤黒い鋼を零しながら、今日も何をするでもなくただその場に佇んでいた。
蛍丸は離れた場所からその様子を見守っていた。彼女がこの屋敷町に連れて来られた当初は、それなりに交流を持とうとしたのだが、どうにも拒絶に似たものを感じ、以来離れた所から見守るに徹している。
この屋敷にやって来た「蛍丸あそ」は彼女が初めてらしく、少女たちを束ねる刀匠は堕ちた少女を戻す術を用いて妖刀鬼女から真剣少女に戻そうと試みていたが、どうやら上手くいかなかったらしい。
彼女がいた場所__虚島に残されていた日記からおおよその事態は伝え聞いた。
優しく真っ直ぐで、最後まで諦めない強さを持った少女だから、戦い続けたのだろう。けれど希望の光は闇に飲み込まれてしまった。
その姿を見た〈鬼を斬った刀〉は蛍丸に問いかけたことがあった。
曰く、あれは鬼か人か__と。
元は少女であった存在。そして、あの姿でも自分と彼女の間に縁は存在している。だからこう答えた。
彼女は自分が縁を結んだ存在に違いない、と。
不穏な事を言ってきたかの刀は、単純な興味本位だったらしく、その答えにそうかと納得して以降は特に普段と変わらずに過ごしていた。逸話によって形作られた身であるが故と理解はしているものの、中々に肝が冷える問答だったと、今でこそ言える。まぁ、似たような逸話を持つもう一振りは縁ある少女が居るが、あの刀にはまだそういった存在はなかったはずだ。こればかりは感覚的なもので、そう易々と理解してもらうには少々__いやかなり骨を折らなければならない。
そんなやりとりを思い出したからか、記憶の蓋が少し開いてしまったようで、
『蛍丸くん』
はにかみながら呼ぶ声や、甘い物を食べてキラキラと輝く瞳、幸せで蕩けるような笑み、美味しかったからと一口分けてくれる優しいところ……記憶に残るほの温かい日々が、今は互いを結ぶ縁に細かな傷をつけてしまう。
早くあの子に会いたいと思う一方で、あの子の変わり果てた姿を放っては置けないという思いも確かにある。
これ以上は泣かないでほしい。涙もろい一面もあったあの子の涙は透明で__宝石のようだったと例えるのは縁を持った所以になるのか__赤い結晶とは似ても似つかない。やはり早く戻ってくれればいいのに。とは言ったものの、こちらでは出来ることに制限があり、刀匠が選ぶ結果を受け入れることしか出来ないのだけれど。
もしこのまま赤い涙を流し続けていれば、身体を蝕むものが流れ落ちて、戻ってくれはしないだろうか。
「……お菓子を作るのが上手な刀が来てくれてさ、頼めば色んなものを作ってくれると思うんだ。それを持ってくるから、また一緒に食べようね」
いつかの面影にそっと約束をして、今はただ静かに見守っていくだけ__。
- 後書き
- 鬼女あそちゃんの方が最初に屋敷町にやって来たルートのお話。
ほぼ独白ですが、やっぱり思考が付喪神だなっていう部分が書きたかったので、書けてよかったです。
某鬼斬りの刀の問いはシリーズ化してみたいと思いつつ、地獄を産みそうなので自重しております。
- 2023/06/01 Privatter掲載作品再up